「事件は?」


■ 卒論書くくらいならこっちから。
■とり(106) 投稿日:99年11月6日<土>00時21分
勘違い、確かにそうかも知れぬ。但し人間は個人として存在する以上、その勘違いと呼ばれるものから逃れることは出来ない。つまり人の判断は常に主観的で、己以外の存在からは違う事実があるということだ。自分は真っ当な人生を送っているつもりで居ても、ちょっと離れたところから観察すれば、少しだけ高いところから鳥瞰すれば、全く野放図で粗野な生き方をしている場合だってある。
あの事件もそうだった。初めはちょっとした、そう、ほんの少しの勘違いから始まったのだ・・・。



■ 第二回
■テカ☆テカ(107) 投稿日:99年11月6日<土>15時13分
あの日ボクは自分の誕生日のプレゼントを自分自身で買うために町に出てきていた、もちろんボクだって世間一般と同じように自分でバースデイプレゼントなんか買いたくないんだけど、それでも誰も関心を持つことはないのだったら少しくらい自分で祝ってもいいかなと思ったんだ。
それで結局というかやっぱり自分の23の誕生日には何を買うべきなのか分からなかったから、そのまま町をブラブラすることにした。



■ 後は任せた。
■yuki(108) 投稿日:99年11月6日<土>16時00分
いつもならこんなふうにひとりで、しかも3時間も歩き続けることなんかボクには考えられない。それなのにボクはまだ歩き続けたかったんだ。自分でも気づいてはいなかったが、きっと寂しかったのだろう。そんな感情が、自分にあるとは思ってもいなかったのだが。
さすがにちょっと疲れてきた。と、半地下の喫茶店が目に入った。寂れた喫茶店だ。別段何も考えずに、そこにはいることにした。



■ やだなあ
■とり(109) 投稿日:99年11月6日<土>22時36分
喫茶店と言うよりもむしろバーに近い店内は、薄暗く、古ぼけた大きなジュークボックスが場違いな感じで中央に置かれている。倦怠と言う名の重い空気が一斉に体に纏わり付いて来て、思わず身じろぎした。
「何にする」
マスターらしき隈の出来た髭の男が、気だるそうに声をかけてきた。その声を聞くと急に喉の渇きを感じ、ビールを注文しカウンターに腰を掛けた。椅子も年代物らしく大儀そうにミシリと音を立てる。それがおまえの仕事だろ、とボクは軽く舌打ちをした。



■ 第五回
■テカ☆テカ(110) 投稿日:99年11月7日<日>03時18分
いつも後になってから思うんだけど、何で僕は自分にプレゼントしようなんて思ったんだろうと後悔していた、意味のない時間を過ごしてしまったなんて考えてると、髭マスターがヌッとやってきてビールをおいていった。
ボクはそれを見て、黒生だな、と思って飲むとやはり黒生だった、ボクは黒生が好きなんだ、しかもそれは技術を持った人間がサーブした証である、スモーキーバブルスがベルベットのように渇いた喉を優しく包みこんだ。
やる気は無さそうでも一応しっかりやってるんだなと思って、何とは無しにヒゲを探すと、どこにいったのか見当たらない。



■ 早く終わりにしよう
■とり(111) 投稿日:99年11月7日<日>11時30分
とその時、誰も居なくなった店内にカランという小気味良い音を立てて女が入ってきた。赤いドレスを纏った、擦れ違えば半数は振り返るであろうほどには美しい女だ。女は薄暗い店内を見まわすと、ボクに視線を止め、にこりともせず近づいてきた。何故か彼女は、風貌からは不似合いな黒い傘を持っている。ここ数日雨は降っていない。不信げな顔でボクが彼女を見ると、彼女は静かに言った。甘い香水の香りが鼻についた。



■ わけわかんなくしちゃったもんね。
■yuki(112) 投稿日:99年11月7日<日>18時22分
「おたんじょうびおめでとう」
ボクが驚いていると、突然低いサックスの音色が響き渡った。Donald Byrdだ。間違いない。あの力強くも切ない音色を、ボクは何度聞いたことだろう。この曲はなんだったっけ。とても好きだったっけ。なぜ思い出せないんだろう・・・。
ふと振り返るといつの間にそこにいたのだろう、髭マスターがジュークボックスの前にたたずんでいた。「street lady」と一言、彼はつぶやいた。



■ これで終わりか?
■とり(113) 投稿日:99年11月9日<火>00時10分
ボクの記憶の片隅の、遠く掠れた場所に彼女は居た。今と同じ、感情を感じさせぬ、それでいて何かしら強い意思を持った美しい横顔。とても懐かしいがそこが何処で、一体何時なのかは分からない。ボクが何か言うと彼女は振り向いた。彼女も何か言ったが、風の音で上手く聞き取れない。生ぬるいが強い風が、二人の間に線を引く。その線を越えても行けぬし、遠ざかることも出来ない気がした。ボクらの道は今までも交わらなかったし、これからも交わることは無いだろう。そうか、その時ボクはやっと気がついた。予感、それも限りなく確信に近い予感だ。ボクらはこうやって今までお互いを感じてここまで来たのに、そのせいで近づくことも遠ざかることも出来なくなってしまった。でもボクの黒い傘はやっぱり僕に届けられるものだし、それは偶然のように見えて絶対に必然であるありふれたバーで届けられるのがきっと一番良い事なのだ。
「ありがとう」
と言って、ボクは軽く微笑んだ。